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Der grosse Sommer ビッグ&リトル/僕、相撲取りになる!

スイス映画 (2016)

日瑞150年交流記念事業の一環として製作された映画。日本での撮影は、2014年9月22日に始まり1ヶ月を要した。プレミアは、翌2015年12月14日、東京で。次が、2016年1月23日のソラテューン映画祭。そして、1月28日からスイスのドイツ語圏で一般公開が始まる。2017年には、ドイツのシュリンゲル映画祭と、デンマークのコペンハーゲン国際映画祭で上映されるが、一般公開は日本も含め、スイス以外では一切ない。スイス在住の日系二世の少年が、相撲取りになりたくて、シュヴィンゲン(スイス相撲)の元チャンピオンの老人と一緒に奄美大島まで行くという物語だが、脚本を初めて書いた2人の手落ちのため、交流記念事業にしては相応しくない場面が多々含まれ、少なくとも日本人にとって観ていて不愉快に感じる可能性が高い。交流を記念するというなら、もう少し、内容に磨きをかけ、相互理解を深めるような映画にして欲しかった。それにもかかわらず紹介することにしたのは、このサイトが、①洋画、②外国籍の子役を対象としている関係上、日系の少年が主役となる洋画など滅多にないためだ。手元にあるものでは、他に、デンマーク映画『Far til fire - på japansk(4人の子のパパ/日本人編)』(2010)くらいしか思い当たらない〔Miki Andersenが脇役で出演〕

シュヴィンゲンの元チャピンオン、高齢のソマーが住んでいるのは、同じくらい高齢の女性が家主になっているベルンの広い庭付きの家の一階。2階には、家主の孫のヒロが一緒に住んでいるが、父親が日本人の相撲取りだったので、自分も相撲取りになりたいと思っている。そんな時、唯一の身寄りだったスイス人の祖母が亡くなり、祖母の管財人はヒロに家を継がせようとするが、ヒロは、家は要らないから、奄美の相撲学校に入りたいと言う。そこで、管財人は、スイス相撲のチャンピオンだったソマーにヒロを託し、奄美まで連れて行ってもらうのがベストだと考える。そこから、2人の珍道中が始まる。東京で一緒に大相撲を見たところまでは良かったが、新幹線で鹿児島まで行こうとして、切符と財布を失くしたことに気付き、途中の駅で降ろされる。ヒロが持っていたお金で、その夜はカプセルホテルで過ごすが、翌日のヒッチハイクで停まってくれたのはトラック1台。しかも、口の悪いソマーのお陰で 目的地を前に降ろされる。食べ物を買うお金も店もない場所だったため、ヒロは農家の兎を盗んで一騒動。その後、歩いて鹿児島の街まで行くと、遺棄された車椅子のボケ老人に遭遇し、老人が持たされていた多額の現金目当てに宿を探し、ひなびた温泉旅館に泊まる。ソマーは女将と親しくなるが、ヒロを奄美行きのフェリーに乗せるため、浴衣のまま宿賃を払わず宿を抜け出す。奄美に着き、小学生に相撲を教える道場まで行くと、相撲の先生から、父が力士ではなく呼出しに過ぎなかったことを知らされ、ヒロはショックを受ける。それでも、ソマーに教えられた “勝つ心” を胸に、ヒロは道場に入ることを許される。ソマーは、スイスに戻るが、平凡な日常に耐えられず、すぐ日本にとって返し、迷惑をかけた人々に謝罪し、最後は、ヒロと一緒に暮らそうと奄美に渡る。

ロイック・翔・ギュンテンベルガー(Loïc Sho Güntensperger)は、母が日本人。DVDのメイキングの中で、2014年10月31日に11本のロウソク(バースデーケーキ)を吹き消す場面があるので、日本でのロケは11歳になる直前。

あらすじ

映画の冒頭、スイスの伝統的スポーツ、スイス相撲「シュヴィンゲン〔Schwingen〕)」の試合の 古い白黒映像が流れる〔この映像の中では 「ホーゼンルプフ(Hoselupf)」とこう表現が使われる。スイスドイツ語のようだが、映画の最後の方で、元チャンピオン自身がシュヴィンゲンと言っているので、死語なのだろうか?〕。白黒映像に出てくる “相撲取り” は2人。この映画の主役の1人ソマー・トニと、若くして死んだ好敵手マダル・クルツ。チャピオンはソマー(Sommer)〔スイス人の「S」の発音は、ドイツと違い「ス」と聞こえることが多い〕。そして、タイトルが表示され、老齢になったソマー〔演じているMathias Gnädingerはスイスの国民的俳優で、撮影時73歳。翌年、映画の完成を待たずに死亡〕が貸家の1階に買い物から帰ってくる〔住んでいる街はベルン〕。部屋には 自作のボトルシップ〔小さな口のガラス瓶の中に、ピンセットを使って大きな船の模型を作ったもの〕が所狭しと飾ってある。そして、今作っているのは、簡単な貨物船(1枚目の写真、矢印)〔年を取って不器用になった?〕。それでも、2階の大家の “ガキ” の騒音で気が散って仕方がない。2階を仰いで睨む。その “ガキ” は、ヒロ。学校から階段を駆け上がって自室に行くと、さっそく大相撲のビデオ〔2014年なのに、化石のような電化製品〕をTVに映す。そして、シーツを水に浸し、濡れたまま木の床に置き、土俵上の円形の俵に見立てる。そして、TVを見ながらイスを相手に格闘し、ラック(簡単な棚)を倒してしまう。その衝撃でソマーの “貨物船” も転倒。怒った祖母がヒロの部屋を覗きに来て、「こんなことは嫌いだと、何度言ったら分かるの?」と叱る。「もう一度やったら、全部窓から捨てますよ!」(2枚目の写真、TVには力士の顔が映り、その上にはダルマが乗っている)。ソマーは、2階に行き、祖母に苦情を言う。「ベックさん。騒音だ!」。「私だって聞こえてます! 嫌なら、出て行ってもらっていいのよ!」。「この年でか?」。「なら、静かになさいよ。それとも、退去通知がいいの?」。ソマーは、「音楽、騒音なし」という入居規約に違反していると文句を言う。伯母の背後を、原因を作ったヒロが、シーツを持ってこっそり通り抜ける(3枚目の写真)。「私は、静かにしてますよ!」。ソマーは、相手の方が強硬なので、すごすごと引き下がる。

その日、ソマーは花屋に行き、花束を買い求める。訪れた先は、かつての好敵手マダルの墓。墓石には 「1938-1964」と彫られているので、僅か26歳で死んだことになる。墓の前で、ソマーは、さっきの出来事を、「あの日本人のクソ坊主め。奴の婆さんが叫んだのを、お前さんにも聞かせたいよ。このままだと、俺がお前さんの隣に入るのも、もうすぐだ」と話す。ソマーが夕方 家に戻って来ると、2階から、“クソ坊主” が 「ソマーさん!」と叫ぶ。「お祖母ちゃんに、閉じ込められちゃった!」。「当然だ、このボケナス〔原語は Zwetschge(プラム)〕」。「出してくれたら、二度と騒がないから」(1枚目の写真)。「お前の祖母ちゃんに ガミガミ言わせないと約束できるか?」。少年は肩をすくめる。そして 「お腹空いた」。ソマーは、パンと干し肉(?)と板チョコ(?)を、2階の窓から降りて来た籠に入れてやる。翌朝、ソマーは、2階の窓から大きな物が落ちる音で目が覚める。窓を開けると、いろいろな物が落ちてくる。さっそく2階に行き、「助けて!」と声のする部屋を開ける〔外から鍵がかけてある〕。「どうした?」。「おしっこ」(2枚目の写真)。「祖母ちゃんは?」。「きっとまだ寝てる」。「こんな騒音なのに?」。2人で探すと、祖母はキッチンテーブルにうつぶせになっていた。「ほらね、眠ってる」(3枚目の写真)。ソマーが 「ベックさん」と言い、指を触ると 冷たい。

連絡を受けた市の担当者が訪れ、祖母の遺体は運び去られ、残された少年ヒロは孤児となる。ヒロは、女性の担当者に 「奄美に行ける?」と質問する(1枚目の写真)。「アマミ? 日本にあるの?」。ヒロは頷く。「そこに、親戚の人が?」。返事は不明。翌日、福祉課の男性職員が、祖母の知り合いだった公証人を連れて来る。目的は、ヒロが相続した家を管理するため。ヒロは 「要らない」と言う。「考え直す気は?」。「ううん。奄美に行きたい」。公証人が、「ツグラッケンさんから聞いたよ。相撲取りになりたいそうだね」と言うと、ヒロは笑顔になる。「一緒に行くかい?」。ヒロが乗り気でなさそうなのを見た公証人は、ヒロの部屋に行き、持参したノートパソコンで、ソマーの過去の試合の映像を見せる(2枚目の写真)。ヒロは、怖いだけかと思っていた1階の人が、スイスの有名な “相撲取り” だったと知り、“連れて行ってもらうのは、この人しかいない” と確信する(3枚目の写真)。

しかし、ヒロのことを「ボケナス」と呼んだくらいのソマーが、簡単にOKするはずがない。そこで、「日本に連れて行ってくれなかったら、出てって」と強引に頼む。ソマーは、「脅しだ」と文句を言うが、公証人は 「家主が自分で使いたいだけです」とやんわり訂正する。福祉課の職員は、「ヒロは、あなたが伯父さんみたいだって」と話し、ソマーを、ヒロのシーソーまで連れて行く。ソマーの部屋では、女性の担当者と公証人が、成り行きを見守っている。2人だけになったソマーは、ヒロに 「伯父さんだと? 何を言い出す」と文句を言うが、ヒロは、嬉しそうに 「トニ伯父さん」とくり返す(1枚目の写真)。「やめろ。いったい何が望みだ?」。「言ったでしょ。それとも気の桶〔Holzeimer:アルツハイマーを言い間違えた〕なの?」。「生意気になりおって」。「仕方ないんだ」。「何が?」。「僕ら、同じだから」。「何をバカな」。「そうだよ。あなたも、“相撲取り” だ。僕を日本に連れてかなくちゃ。鍛えてくれたら、きっと試験に受かる」。しかし、ソマーは、「もう止めたんだ」と言って取り合わない。すると、さっそく書留郵便が届き、「契約解除」を通知される。今さら引っ越しなどできないので、ソマーは仕方なくヒロと一緒に審査会に臨む。廊下で待つ間、公証人は2人に笑顔になるよう示唆し、さっそくヒロは実演するが(2枚目の写真)、ソマーはなかなかその気になれない。その状態で、2人は室内に呼ばれる。部屋の中には7人がいて、前列中央にこれまで出てきた男女の職員が座っている。2人は交互に、ヒロの希望と、未成年の養育に関する法律上の要件を説明する。そして、女性が、ソマーに、老齢でヒロを遠方まで連れて行けるか問い掛ける。返答はあまり適切ではない。英語は話せるか訊かれると、ヒロが すかさず日本語ができるとサポート。しかし、ソマーの表情は常に堅い。2列目中央の “最終決定責任者” が咳払いをしたので、ヒロは立ち上がるとソマーに抱きつき、「トニ伯父さん」と甘える(3枚目の写真)。ソマーは 「この腕白〔Schlingel〕!」と相変わらずだが、“甘え” が効いて許可が下りる。

場面は、いきなり飛行機の中。スイス映画なので、スイス インターナショナル エアラインズ〔スイス航空は2002年に倒産〕だ。機内で、ソマーが公証人から渡された封筒を開けると、中には国内旅費が入っている(1枚目の写真)。1万円札1枚、千円札1枚、2千札1枚。その下は、重なっていなければ10枚ほどしかなく、奄美まで大人1人が往復、子供1人が片道するには少なすぎるような気がする。ヒロは、機内に祖母のコート〔左ボタン〕を持ち込んでいる。それを見たソマーが理由を尋ねると、「思い出」と答える。ここで、ヒロが家の鍵を見せる。ソマーがさっそくもらおうとすると、ヒロは、「『ヒロ・アキバの居住場所に関して適切で恒久的な解』を見つけたら」と、調停書の文章を引用して拒否する(2枚目の写真)。そして、ヒロは、その条件をソマーに復唱させる(3枚目の写真)。

渋谷のスクランブル交差点。ヒロは、新幹線の発車まで丸1日あると告げられると、東京を見たいとせがみ、最初は嫌がっていたソマーも渋々了承する。「だが、離れるんじゃないぞ」(1枚目の写真)。ところが、歩行者信号が青になると、すぐにヒロが走り出す。鞄に気を取られていたソマーは、姿を見失い、捜しながら横断歩道を歩いていると、道の真ん中で信号が赤になり、取り残される(2枚目の写真、矢印)。ヒロは、他の男性に肩車してもらい合図する(3枚目の写真)。一緒になった後、ソマーは、「これからは、言われた通りにしろ」と叱るが、ヒロは、親指、人差し指、中指の3本を立てる〔いったい何? “gesture of extending thumb, index and middle fingers” で検索すると、①単なる挨拶、②正教の洗礼の時の象徴、③愛国、④数字の3〕。何れにせよ、背中に隠した左手で、人差し指と中指を交差させているので、これは嘘の約束。このあと2人は山手線に乗り、池袋で降り、「節骨麺 たいぞう」の池袋総本店に入る〔映画の中で店名は表示されない〕。ソマーは全く箸が使えず、両手で1本ずつ持って食べる。それに店長から、タダでお酒を勧められるが、ヒロに「断るの失礼だよ」と注意されても、憮然とした顔で断る。

映画には映らないが、2人は、地下鉄を乗り継いで両国まで行き、ヒロ念願の大相撲を観戦する。DVDのメイキングを見ると、国技館の前の歩道に “のぼり” が20本以上立っていて、その前に人だかりがあり、そこにヒロもいる。そして、「2014年10月3日」と表示される。しかし、2014年の秋場所は9月14日~28日なので、恐らくメイキングの方が間違っているのだろう。メイキングでは、9月28日に池袋の西一番街でのロケをしている。この前後に両国でロケをしたに違いない。映画の中で、2人が 国技館の前で挨拶する力士は 隠岐の海。館内で 2人が座った場所は、2階イス席の真ん中の辺り(1・2枚目の写真)。2人は、そのあと、近くの八角部屋を訪れる。ヒロは八角親方に体を90度曲げてお辞儀をすると、日本語で 「ここは、いい相撲学校ですか?」と訊く。親方は、ソマーに対し、部屋について丁寧に説明する。ヒロは、ソマーを振り向き 「そうだって」としか言わない(3枚目の写真)。「他に、何て言った?」。「何も。そうだって言っただけ」。「いまいましい〔Verdammte〕、日本人め」。「それ 訳す?」。「空きがあるか訊け」。「ここじゃない。僕、島に行きたいんだ」。「訊け」。「嫌だ!」。

“通訳” が機能停止状態になったので、ソマーはヒロを伴って秋葉原に行き、量販店で携帯翻訳機を買おうとする〔すねたヒロは手伝おうとしない〕。この時の、女店員とのやりとりは非常にコミカル。まず、何が欲しいのかが店員に伝わらない。そこで、店員は、まず目的を訊こうと携帯翻訳機を取って来て、「ドイツ?」と 英語で訊く。ソマー:「シュヴァイツァー〔スイス:Schweizer〕」。店員には、それが聞き取れない。そこで、ソマーは 「シュヴァイツァー、チーズ」と言うが、店員は 「チーズ」を「小さい」と聞き間違える。ソマーが否定して「チーズ」とくり返したことで、ひょっとしたらと思った店員は、翻訳機に向かって 「スイスですか?」と囁くと、翻訳機から 「Sind Sie ein Schweizer?」 と滑らかな男性の声が出てくる〔この時点で、この機械は “現実にはあり得ない” ことが分かる〕。ソマー:「Ja」。女性の声:「はい」。ソマー:「Schweizer」。女性の声:「スイス」。ソマーは店員がしゃべった言葉を覚えていて、「小さい」と言うと(1枚目の写真、矢印が翻訳機)、今度は男性の声で「Klein」。ソマー:「Und das bescheist einen nicht?」。女性の声:「この機械はヘマしないんだろうな?」。店員は首を横に振る。満足してこの機械を買ったソマーは、八角部屋にとって返し、「Wieso jetzt nicht?なぜだ?」と親方に食ってかかる。「彼はまだ小さ過ぎますEr ist noch zu klein」。「Was zu klein? 小さい?何だと、小さい?」。「お相撲さんには、15歳からしかなれませんJa, hierher kann man erst mit 15」(2枚目の写真)。ここで、ヒロが割り込み、「僕、島に行きたい」と主張する(3枚目の写真)。ソマーは反対するが、ヒロは、「父さんが、そこにいた」と理由を話す。親方も、奄美と聞き、“さとし先生の道場” に太鼓判を押したので、ソマーは降伏せざるを得なくなる。

2人は東京駅に行き、駅構内のトイレに入る。ソマーは。財布の入ったポーチを洗面カウンターの鏡の下に置いて手を洗いながら、個室に入っているヒロに 「待てなかったのか?」と訊く。「うん」。そして、「ソマーさん?」と声をかける。「何だ」。「本当なの?」。「何が?」。「日本人のチンチン〔Schniedel〕、みんな小さいの?」。「わしが知るか」(1枚目の写真、矢印はポーチ)。ソマーはポーチを、“キャリーケースの上にリュック” の上に置く。「僕の小さいよ」。「小さい小さい、ここじゃ何もかも小さいのか?」。「本当なの?」。「ナンセンス。お前は、これから大きくなるんだ」(2枚目の写真、矢印はポーチ)。「チンチンも?」。「そうだ」。「日本人なのに?」。「そうだ」。「どうして?」。「半分 日本人だからだ。それに、スイスで育ったしな」。そう言いながら、ソマーはリュックを肩にかけ〔この時、ポーチが床に落ちたハズなのだが、画面では落ちるところは見えず、音もしない〕、トイレを出て行く〔ヒロも、キャリーケースを引いて付いていったハズだが、落ちたポーチには気付かない〕。新幹線は走り出す。窓から見えるのは 何もない田園風景なので(日没近い太陽が映る)、少なくとも新横浜を通り過ぎたことは確か。そして、窓の外が日没後になり、超高層ではないビル群が見えてくる。そして、5号車のドアが開いて車掌が入ってくる。4列シートで、黄土色のシート。この組み合わせは、九州新幹線(大阪~鹿児島)でしかあり得ない〔つまり、大阪で降りて、乗り換えたことになる〕。車掌が検札に来た時、ソマーは切符を捜すが、どこにもない。そこで、翻訳機を取り上げ、「Ich glaube, meine Tasche wurde gestohlen/バッグが盗まれたようなんです」と車掌に言う(3枚目の写真)。車掌:「日本では、何も盗まれません。絶対/In Japan wird nicht gestohlen. Nie」。「Das glauben Sie ja selbst nicht. Diese Reisfresser. Verdammt/そんなこと、自分だって信じてないだろ。米食い野郎。ちくしょうめ」。ヒロが、「東京駅のトイレで落としたんだよ」と注意する〔東海道新幹線が指定席の検札を廃止したのは2016年春からなので、この時点ではまだチェックされているハズ。なぜ、新大阪に着く前に指摘されなかったのか?〕

そして、2人は次の駅(?)で降ろされる(1枚目の写真)〔検札はそんなに遅くならないから岡山に行く前には来るだろうが、新幹線のホームに先端でも屋根がないのは、こだまの停車駅くらい。ところが、背後には超高層のビルが並んでいる。ここはどこ?/因みに、ホームの向こうには、高架の高速道路も通っている/撮影は、ホームに屋根のない都内のどこかの駅だろうが、探しきれなかった〕。ヒロが持っていたお金を出すと、4000円しかない(2枚目の写真)。2人は、駅から外にでて、コンビニで買った(?)おむすびを、1個ずつ食べる(3枚目の写真)。食べ終わった後、ヒロは、100メートルほど先にあるラブホテルを見つけ、「3時間、3990円」だからと言って走っていく〔4000円、マイナス、おむすび代では泊まれない〕。そして、子供がラブホテルのフロントに来たので、追い払われる。

2人はカプセルホテルに行く〔ここでも、2人で4000円では無理〕。ソマーは、靴のまま中に入ろうとし、フロントの女性に呼び止められる。「館内ではスリッパをお履き頂きますようお願い致します/Entschuldigung, darf ich Sie bitten, im Haus Hausschuhe anzuziehen?」。ヒロがスリッパを差し出す(1枚目の写真、矢印)。女性:「申し訳ありませんが、よろしくお願いします/Entschuldigung. Danke vielmals」。浴衣に着かえたソマーが、どこかに行こうとする。「どこに行くの?」。「トイレだ」。「一緒に行こうか?」。「正気か〔Spinnst du〕?」。しかし、トイレの前でひと騒動。さっきの女性は、トイレ専用のスリッパに履き替えるよう求めるが、翻訳機を持っていかなかったので通じない。そこで、「小僧〔Junge〕!」とSOS。ヒロは、トイレ用のスリッパを手渡す(2枚目の写真)〔トイレのスリッパを手で持つのは衛生的ではない〕。2人は、上下のカプセルに入るが、しばらしてヒロがカーテンを開け、ソマーを呼び、「眠れない」と訴える。「目を閉じろ。眠れる」。目を閉じるが眠れないので、またソマーを呼ぶ。すると、少し離れたカプセルのカーテンが開き、「すみません。できたら休みたいのですが、お願いします」と苦情を言う(3枚目の写真)〔カプセルの遮音性はゼロ〕。ソマーは、意味が分からないままに、「安宿に泊まるからだ!」と怒鳴り、外人から叱られた客は、意味も分からず「すみません」と謝ってカーテンを閉める。この場面の “非常に狭い空間” での撮影シーンが、DVDのメイキングにある(4枚目の写真)。撮影は、都内のホテルで9月30日に行われた。

2人は翌朝、ヤシの木の生えている公園の脇で、ヒッチハイクを試みる。最初は、ソマーが手を上げたが、怖くて誰も停まってくれないので、今度はヒロが手を上げる(1枚目の写真)。それでもダメなので、ソマーは歩道橋の陰に隠れる。今度は、女性が運転するマーチが停まってくれる〔東京から非常に離れた場所という設定にもかかわらず、品川ナンバー〕。しかし、ソマーが姿を見せると、逃げ出してしまう(2枚目の写真)。因みに、この撮影場所は、幕張メッセ(3枚目の写真は、グーグルのストリートビュー)〔メイキングには出てこないので探した〕。結局、ソマーが左側車線の真ん中に飛び出し、両手を拡げてトラックを止める。このトラックで、2人は鹿児島を目指す(4枚目の写真)。

トラックを一団のバイクが追い越して行き、トラックの前でワザと蛇行運転をして走行を妨害する。運転手は 「この野郎どもめ…!」と怒鳴り〔この後は、日本語なのに、何を叫んでいるか聴き取れない〕、クラクションを何度も鳴らす。それを見たソマーは、「この罰当たりのクソ〔Verdammte Scheiß〕日本人!」と罵る〔いつもながら、口が悪い〕。ヒロが、「なぜ あんなことするの?」とソマーに訊くと、「チンチンが小さいからだ」と答える。そして、トラックの運転手に、「小さい、分かるか?」と訊く。運転手は、「小さい」という言葉に反応する。ソマーは「ああ、小さい」と言いながら笑うと、翻訳機を取り出し、「Ich habe gesagt, dass diese Burschen kleine Motorräder haben/小さなバイクに乗ってると言ったんです」と嘘をつく。運転手:「小さいけど凄いよ/Yes, small but powerful!」。ここで、何を思ったのか、ヒロが運転手に 「日本人は、みんなチンチンが小ちゃいってほんとですか?」と訊く。「誰がそんなこと言ったんだ?」。ヒロは、ソマーを指差す(1枚目の写真)。運転手は、ソマーに 「なんでそんなこと知ってんだ?/Woherwollen Sie das wissen?」と訊く。「Ich habe nieso etwas gesagt/そんなこと言ってない/Der spinnt mit seinem verdammten Idiotenkopf!/こいつ〔ヒロ〕の頭がどうかしてるんだよ」。それを聞いた運転手の日本語は聴き取れず、翻訳機は「Hey, schimpfen Sie nicht so mit dem Jungen(おい、子供をそんな風に言うなよ)」と訳す。ソマー:「Ich schimpfe nicht/俺はそんなこと言ってねえよ」。それを聞いたヒロは、「Immer schimpfst du(いつも言ってるじゃないか!)/いつも言ってるよ〔翻訳機が勝手に訳す〕と、ソマーに食ってかかる。運転手は、その「いつも」を聞き、「いつもか?」と訊く。ヒロ:「そうだよ。いつも。おまけに、日本人はみんなクソだって」(2枚目の写真)。その翻訳を聞いていたソマーは否定するが、ヒロは再反論。運転手は、「いつ、そんなこと言ったんだ?」と厳しい口調で訊く。「たった今だよ」。運転手は急ブレーキをかける。そして、許されざる外国人は放り出される(3枚目の写真)。この会話のシーンは、メイキングでは、アシスタントが手でトラックを揺らしたり、木を持って助手席の窓の外を走ったりする姿が収録されている〔トラックが走っているように見える〕

ヒロは、自分のせいでこんなことになったことへのお詫びの意味で、「何か食べる物 捜してくるよ」と言い、唯一残った千円札1枚を見せる(1枚目の写真、矢印)〔前に “これしかない” と見せた4枚はシワが寄っていたので、これは別のお札。どこにあったのだろう?〕。ここは、いわゆる典型的な日本の過疎地で、低い山と稲田しかない田舎。ソマーは、ここで夜を過ごす覚悟で 木の枝を拾ってきて焚火の用意をする。そして、誰もいないのに翻訳機を取り出すと、「Du bist ein verdammter Scheißjapaner/お前は畜生クソ日本人だ/Ich bin kein Japaner/俺は日本人ではない/Ich bin ein Schweizer/俺はスイス人だ俺はスイス人だ(ソマーが真似をする)/Ich bin ein Schweizer(正しく訳したので喜ぶ)/Die Japaner sind alleverdammte Idioten!/日本人はクソバカだ日本人はクスバカタベツ(上手く真似できなかった)/Japaner sind verdammte Idioten(笑う)」〔日本で公開されなかったのは、こうした言い回しが多いから?〕。そこに、ヒロが生きた兎を抱えて帰ってくる。「どこで兎を?」。「農家で」。「金は足りたか?」。「うん」〔嘘〕。このあと、ウサギを殺そうとするが、ソマーにはできず、ヒロは相撲でやっつけようとして(2枚目の写真、矢印は兎)、逃げられる。兎が道路の盛り土を登っているのを見つけたヒロが後を追うと、兎は車にぶつかって死んでしまう〔このN-BOXも品川ナンバー〕。運転していた女性は、標準語で謝り、お詫びに大きなパンダのぬいぐるみをくれる。この一連のやりとりの中で、同上していた男性が、女性に、「もう行こうぜ せっかく来たんだからさ… ***」と言う〔この映画、俳優の日本語が聞き取れないことが多い→下手なのか?〕。翻訳機は、「Jetzt sind wir extra raus gefahren. Ich will jetzt vögeln(せっかく来たんだ、一発やらせろ)」と訳す。ヒロは 「“vögeln” ってどういう意味なの?」と訊く。ソマーは、その場では口ごもる。そして、夜になり、焚火の元で、「分かったろ」と言うので、直前に意味を説明したのだろう。「大きくなったら、僕もやりたい」。しばらくして、ソマーは 「両親はどうしたんだ?」と訊く。返事はなく、代わりに、「どうしてシュヴィンゲンやめたの?」と訊かれる。ソマーは、話し始めるが、あまりに悲しい話なので、途中でやめてしまう。「残りは、明日話してくれる?」(3枚目の写真)。「ああ」。

翌日早朝、農家の老夫婦がやって来て、兎の剥ぎ取った毛皮を見つけ、言葉を交わす。「私たちの兎?」。「あいつが、昨日の小僧だよ」。この声で目が覚めたヒロは、必死にソマーを起こす。2人を見たソマーは、ヒロに 「連中、何なんだ?」と訊く。ヒロは 「お金が足りなかった」「盗んだ」と言い、千円札を農夫に渡すが、「こんなの少なすぎるよ」と言われてしまう。この時、ソマーが翻訳機のスイッチを入れたので、意味が分かる。奥さんはお札をサマーに渡すが、サマーはすぐに農夫に渡す。「少な過ぎるって言ってるでしょう/Ich hab doch gesagt, es ist viel zu wenig!」。さらに、「バカにしてんですか?/Sehe ich aus, als wäre ich blöd?」と怒り、火の消えた焚火の上に お札を投げ捨てる。ソマーはすぐにリュックを背負うと、夫婦に向かって何度も頭を下げる。農夫は許してくれそうにないので、あとはひたすら逃げる。ソマーはヒロを追って竹林に入り、「小僧!」と呼ぶが、どこにも姿がない(2枚目の写真)。すると、「ソマーさん」という声が聞こえ、ようやく再会。ヒロは、「ごめんなさい」と謝る。ソマーは、“盗み” よりも、会えたことを喜び、抱こうとする(3枚目の写真)。しかし、急にヒロは真面目な顔になり、「お友だちはどうなったの?」と昨夜の続きを聞きたがる。ソマーは、昨夜、友人であり、対戦相手でもあるクルツを、肩から投げたところまで話していたが、「首を折った」と辛い過去を話す。「わざと?」。そうじゃないと知ると、ヒロは不可抗力だと宥めるが、クルツはそれ以上話そうとしない。

竹藪を下ったところに、「露国皇太子ニコライ殿下来麑記念碑」が立っている。これは、鹿児島市内の城山自然遊歩道にあるので、2人がトラックから降ろされたのは、鹿児島市内だったという設定になる〔ソマーの脚では、遠距離を歩くのは不可能〕。ソマー:「さあ、フェリーに乗るぞ」。ヒロ:「でも、お金ないよ」。「じゃあ、盲人のフリをするか」。ヒロは、目をつむり、手探りで歩いてみる。そのお陰で、キャリーケースが手から離れ、坂道だったので勝手に走り出す(1枚目の写真)〔映画だと、碑の直後がこうなっているように見えるが、実際には50m離れている〕。そして、1台のバンが走り去るのが同時に映る(矢印)。キャリーケースは、車椅子に乗った老人の所で停まる。2人は、老人の前に来る(2枚目の写真)。老人は全く反応しない。右ひざに置かれた封筒の表書きをヒロが読む。「父の面倒を見て下さい。部屋がありません。ごめんなさい」。封筒の中には数十万円のお金が入っていた。この映画の脚本を書いたのはTheo PlakoudakisとMarco Salituroの2人(映画の脚本はこれ1作のみ)。すべての責任は彼らにある。ネットで、日本における高齢者の “置き去り” について調べてみたら、唯一出てきたのは、2020年に愛知県で起きた、「福祉相談センターの職員が徘徊高齢者を管轄区域外の公園に連れて行き、深夜に置き去りにした」行為のみ。あるメディアでは、この事件を「まるで犬猫を捨てるように、愛知県の職員は老人を置き去りにした」と書いている。映画の脚本は、日本では起こりえない事態だ〔日本で公開されなかった最大の理由?〕。ヒロは、札束を見て 「僕ら お金持ちだ」と言う。「戻せ」。「もらってこうよ」。「バカ言うな」。「もっと持ってるかな?」〔この会話も、ヒロの人格を疑う〕。ポケットの中から出てきたのは、「アミュラン」の切符〔JR鹿児島中央駅にある複合商業駅ビルにある観覧車〕。ソマーが車椅子を押し、照国神社の神門の前を通る〔置き去り地点から120m〕。その先の経路は不明だが、駅までは約1.7キロ。ソマーは、観覧車の整理員に、「Kennen Sie den Mann?  Er wurde hier am Stadtrand ausgesetzt/この人を知っていますか? この周辺で置き去りにされていたのですが」と翻訳機を向けるが、「ごめんなさい。この人は知りません/Es tut mir leid, ich habe den Mann noch nie gesehen」と言われる。2人は、老人を連れてゴンドラに乗る。老人は100%認知症のように見えるが、途中で 「文太」と一言〔演じているのは、菅 登未男〕。2人+1人は、その日の宿を求めて歩く。そして着いたのが「中島温泉旅館」と書かれた立派な門構えの場所。ヒロが、ソマーの杖で門を何度も叩くと、女将(おかみ)が現れる(3枚目の写真)〔俳優は倍賞 美津子〕。この、鹿児島らしい凝灰岩の石塀のある立派な門は、残念ながら今はない。4枚目の写真・は、メイキングで、桜島の火山灰をまいている場面。右側の男性が立っている場所が、現在 自販機が置いてある場所。その先は道路に並行した駐車スペースになり、石塀と門と植木はない(4枚目の写真・〔家だけ残っている〕。鹿児島に疎い人間が、“なくなったもの” をグーグルのストリートビューで探すのは至難の業だった。

3人は一緒に大浴場に入る(1枚目の写真、ソマーの図体が巨大であることがよく分かる)。その後、ヒロが、ふすまの間からこっそり見ている。中では、布団に寝かせられた “文太” を 女将が世話しているのを、ソマーが嬉しそうに見ている。2人が怪しいムードなので、ヒロの機嫌は悪い〔なぜ?〕。そして夕食の時間。丸い小さなテーブルの真ん中に刺身の大皿が置かれ、その前には焼いたサンマ、ご飯と味噌汁。場面が変わると、茹でた蟹や、野菜の煮つけが乗っている。ソマーは、ご飯を手づかみで食べる。そこに、女将が、ヒロにはアイスクリーム、ソマーには燗酒(かんざけ)を持って来る。ソマーは喜んで盃を手にするが、ヒロは、東京で断ったくせに 嬉しそうに飲むのが許せない。ソマーは、「長い1日だった。寝る時間だぞ」とヒロを追い払おうとする。ヒロは、「疲れてないの?」と訊き、さらに、「あの女(ひと)と やりたいの?」と 不適切な質問をする(3枚目の写真)。ソマーは、寝ないと奄美に行かないと脅し、ヒロを部屋に行かせる。

ソマーは、女将とテーブルで翻訳機を通して話し合う。2人は 「年寄りの独り身という点で一致する」。そして、ヒロとは違う部屋に行き、女将がソマーの肩を揉み、「/Schulter」と言う。首を揉むと、「/Nacken」、そしてさらに、「/Arme/背中/Rucken//Kopf」。女将はソマーを平らに寝せる。「/Brust/お腹/Bauch」。ここで、女将は翻訳機を取り、「これ、何でも知ってるんですね/Das weis ja wirklich alles」と言う。「Ja, ja, alles/ええ、すべてです」。女将は、股の辺りを指して 「ここは?/Und wie heist das?」と訊く。「Das hat viele Namen/いろんな名前があるよ」。「何て?/Zum Beispiel?」。「チンチン/Schniedel」。声が小さ過ぎるので、翻訳機は、「Bitte lauter reden(大きな声で話して下さい)」と言うが、ソナーは、そのまま、「Pfeifchen(パイプ)、Wurstchen(ソーセージ)、Pimmel(蛇口)、Piller(弾丸)、 Pullermann(くちばし)」と言い〔敢えて、元の意味を示す〕、翻訳機の度重なる指示に従い、大きな声で、「Lummel(ドリル)、Latte(角)」。翻訳機:「Wechseln Sie bitte die Batterien(電池を交換して下さい)」。ソナー:「Schwanz/しっぽ」。これだけ訳し、電池が切れる。女将は 「しっぽ」と言い、手を後ろに逸らしてしっぽの真似をする」(1枚目の写真、矢印)。そのあと2人はキスする。女将が 「待ってて下さいね〔翻訳機は動いていないので、ソマーには意味不明〕と言ってどこかに行くと、遠くから汽笛が聞こえたので、ソマーはヒロと “文太” の部屋に行く。そして、“文太” の封筒から半分ほどお札を抜くと、「必ず返すよ」と誓う。さらに、ヒロを強く揺すり(2枚目の写真)、「フェリーに乗らんといかん」と起こす。そして、女将に内緒で宿を出て行く(3枚目の写真)。

鹿児島から奄美に向かうフェリーの中の2人は、旅館からこっそり抜け出して来たので、浴衣姿のまま。私は、沖縄には3回行ったが、奄美には行ったことがない。ネットで見たら船で11時間もかかると知ってびっくりした。その間、ソマーはヒロにデッキで “訳の分からない” 練習をさせる(1・2枚目の写真、2枚目は細い木の棒に刺した菓子(?)を食べさせての腕立て伏せ)。乗客も2人と一緒に遊ぶ。鹿児島では不愉快な場面が多かったので、ようやく “日瑞150年交流記念事業” に相応しい映像となった。最後は、2人仲良く座る(3枚目の写真)。

2人がフェリーを降りた後、壮大な自然の中を歩いている場面がある(1枚目の写真、矢印はヒロが投げた石で跳ね上がった水)。如何にも大自然を思わせる場所だが、今回、初めて奄美をサーチしてみて、このような場所は皆無に近いことが分かった。小河川はかなり多いが、狭い島の貴重な土地なので、そのほとんどに人の手が入り、田畑が作られている。このように広い砂州はどこにも見つからなかった。唯一あったそれらしき場所は、名瀬のフェリー乗り場から北北東4.8キロにある場所。周辺は、4キロにわたり断崖の続く海岸で道路は全く通っていない。ここに辿り着くには、舟にでも乗るしかない。そういう意味では、奄美を代表する風景とは言い難い。2人は “さとし先生の道場” のある場所に着く。撮影場所は大和村の国直集落。名瀬のフェリー乗り場から西南西8.8キロにある場所。2人が土俵の前まで行くと、“さとし先生” が現れる(2枚目の写真)。この場所のグーグルのストリートビューは3枚目の写真。そして、その場所で向きを90度右回転すると、4枚目のような風景に変わる。この土俵が、美しい海沿いに作られていることがよく分かる。因みに、南海日日新聞(2014.10.19)によれば、「エキストラとして奄美大島の小中学生など30人も参加」と書かれている。この公民館の土俵では、毎年 豊年相撲が行われているそうで、大和村公式観光サイトによれば、「一年の農作物の収穫を祝うと共に集落の無病息災に感謝する行事で、奉納相撲や余興、八月踊りで楽しむ集落最大のイベントです」とある。そのサイトに掲載されていた「国直集落クガツクンチの奉納相撲」の写真を、上に紹介する。

ヒロは、感激した面持ちで「さとし先生」と呟くと、ソマーに、「すぐに僕のこと、分かってくれるよ」と言う(1枚目の写真)。“さとし先生”:「力士になりたいのか?〔俳優は、苅谷 俊介〕。「僕はアキバ・ヒロです。あきば としおの息子です」。しばらく考え、「ああ、昔、あきばってのがいたな。君はその息子か?」。「彼が最高に強かったってホントですか?」。「お父さんは、力士じゃなかった。何年かここにいたけど、いつも土俵を掃除する呼出しだったんだ。お父さんは力士に向いてなかった。素質がなかったんだな」。その言葉にヒロは愕然とする(2枚目の写真)。表情が一変したヒロを見て、サマーが「どうした?」と訊く。「父さんは相撲取りの力士じゃなかった。父さんは、いつも、呼出しが滑稽だって真似してた。でも、自分がそうだったんだ。ホウキ男」。ソマーは 「試験は受けるんだろ?」と訊く。2人の会話の内容は分からなかったが、“さとし先生” は、「試験の日は、子供が一人だけで来るのが決まりだ。親はダメ」と言う。それを訳されたソマーは、その場を去る。ヒロは、その日、子供たちと一緒にいるが、不安になったので、海岸にいたソマーに会いに行く。そこで、ソマーは、クルツとの最後の対戦について初めて本当のことを明かす。①決勝の5分前に、最愛の女性が去って行った。②腹が立ったソマーは、それをクルツにぶつけてしまった、というもの(3枚目の写真)。ヒロは、「クルトさんは、“ずーっと悲しんでて欲しい” なんて思ってないよ」と慰める。「この、目の細い〔Schlitzauge〕のチビめ」。

試験のことを不安がるヒロを見て、ソマーは、夜、ヤシ林に連れて行く。そして、「シュヴィンゲンで一番大事なことは、相撲でも同じだと思うが、だ」と教える。そして、ヒロがヤシをを込めて押すと(1枚目の写真)、ソマーがヤシを揺らし、如何にも “が動かした” ように思わせ、自信を付けさせる。そして、翌日、試験の日なのにソマーは現れる。ヒロの対戦相手は大柄な少年。それを見たソマーは、さっそく文句をつける。「どうしたらいい? 重さが倍はあるぞ。公平じゃない」(2枚目の写真)。そして、「小僧、訳せ」とヒロに命じる。ヒロは、仕方なく、「ソマーさんが言ってます。イサムは僕よりもっと大きくてフェアじゃないって」。「そうかな。じゃあ、何年かして、ヒロが立派な力士になって土俵に立った時、対戦相手が自分よりずーっと大きな力士だったら、相手に対してフェアじゃないって言えるか? 人生なんてそんなもんだ。フェアな時もあれば、そうじゃない時もある〔適切な返事ではないと思うが、日本の俳優は、アドリブで下手な脚本を変えないのだろうか?〕。その訳を聞いたソマーは 「」で戦えと再度アドバイスする(3枚目の写真)。

そして、本番。ヒロは、パンツの上から廻しをつける。そして、「両手をついて」(1枚目の写真)。ヒロは頑張るが、押し倒され、仰向けに土俵に倒れる。心配したソマーが、「小僧」と呼びかける(2枚目の写真)。ヒロは、意識が戻ると、「うまくいかないって言ったよね」と落胆する。しかし、その時、“さとし先生” が拍手し、「ヒロは明日から 我々の学校の一員だ。合格おめでとう」と言い、ヒロの顔が喜びで輝く(3枚目の写真、ソマーは何を言われたのか分からない)。ヒロに訳されたソマーが変な顔をしたので、“さとし先生” は、「技体」と言い、胸を叩く。すると、ソマーが 悪い癖で、「罰当たりのクソ日本人め」と言う。「訳した方がいい?」。「もちろん」。「このクソ日本人め」。“さとし先生”:「このクソ スイス人め」。その訳を聞いたソマーは笑い出す〔ここも、日本の感覚からはズレているし、他の海外の映画でも、こうした “礼を失した” 展開は見たことがない〕

2人は名瀬港でフェリーの来るのを待っている。ヒロは、長い別れになると思っているので、ソマーに寄り添っている(1枚目の写真)。やがて、フェリーが埠頭に着く。ヒロは首に掛けていた家の鍵を外し、ソマーに渡す(2枚目の写真、矢印は鍵)〔これで、ソマーはベルンの立派な家の所有者となった?〕。2人は握手して別れ、ソマーは乗船する。船は岸壁から離れるが、見送るヒロの姿は 如何にも小さい(3枚目の写真)。その後、ベルンの家に戻ったソマーが映る。如何にも暇そう。そして、花束を持ってクルツの墓に行くと、たくさん墓が並んでいた場所は、ショベルカーで掘り返され 何も残っていない〔そんなことが あり得るのだろうか?〕。それが何かの契機になったのか、ソマーはそれまで頼っていた杖を投げ捨てる。

そして、飛行機で再び日本へ。最初に映るのはカプセルホテル。フロントの女性に、スイスらしいスリッパをプレゼントする(1枚目の写真)。そして、ヒロが兎を盗んだ農家。「ありがとございます」と言って、兎を2匹差し出す(2枚目の写真)。そして、最後は旅館。“文太” は口がきけるようになっている。ソマーは、女将に 「あいしてるよ」と言った後で、「すみません」と 深々と頭を下げる(3枚目の写真)。その後で、女将を抱きしめる。

最後は、フェリーで奄美へ。キャリーケースを引いて海岸を歩き(1枚目の写真)、“さとし先生の道場” へ。2人はそこで再会を果たす(2枚目の写真)。最後は、海岸に座った2人の会話。「今度は、僕と一緒にいる?」。「お前が言ったんだぞ」。「ずっと?」(3枚目の写真)。「生きてる間はな」。「じゃあ、どのくらい生きられる?」〔Mathias Gnädingerが亡くなったのは、撮影が終了して間もない 2015年4月3日だということを思うと、悲しい質問〕。「お前が大きくなるまでだ」。「それじゃあ足りないよ」。

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